吉野杉を使った端材のリユース活動を促進する【荒木木工所】

吉野杉を使って酒樽の部材を加工している荒木木工所。近年は、小型の樽サーバーや端材を利用したお洒落なフラワーベースを制作しています。社長の荒木健治さんは、丹精込めて育てた吉野杉も、役目が終われば廃材として燃料にされたり、産業廃棄物として処分されたりしている現実に警笛を鳴らしています。戦後開拓地として開村した吉野町の殿川集落に木工所を構える荒木さんに、過疎化した村で後継者不足に悩む現在の状況や、今取り組まれている環境にやさしい活動などについてお話を伺ってきました。

吉野町殿川集落にある荒木木工所

近鉄榛原駅から車で約30分。うっそうとした木々の間を車が1台やっと通れるような狭い一本道が、くねくねと曲がりくねって山の上へと続きます。こんな所に人が住んでいるのかと思っていると、いきなり村落が現れました。数軒の平屋を過ぎた所に、木材が整然と並べられた荒木木工所がありました。

出迎えてくださった荒木健治さん・久美子さんご夫妻

 Q:すごい山の中に木工所があるんですね!

よくこんな山奥までお越しくださいました。雨上がりの道は滑りやすいので、運転怖くありませんでしたか?冬は雪が積もるともっと大変なんですよ。

Q:大丈夫でした。ありがとうございます。さっそくですが、この殿川集落について教えていただけますか?

ここは昭和22年に、海外引揚者や戦災者、復興軍人の就業確保を目的に開かれた戦後開拓地なんです。最盛期には30~40軒、100人以上の方が住んでいたそうで、その頃、私の祖父も家族を連れて川上村からここへ移住しました。現在の人口は14人で、8軒あるうち最初からいる人たちは私たちを含めて3軒のみとなりました。

Q:ここの入植された方々は、何で生計を立てておられたのでしょうか?

キュウリ、トマト、スイカ、リンゴ、桃、梨、葡萄などの野菜や果樹を育てて暮らしを立てていたそうです。入植当初は松林だったので木の伐採から始めて、耕運機もなかったのでクワひとつで土地の開墾をしていったと祖父から聞いています。

Q:家もご自分で建てられたのでしょうか?

そうです。村の家はどこも間取りが一緒でね。子どもの時、どの家に遊びに行ってもうちとそっくりで不思議でした。村人全員で協力し合って建てたのでしょうね。今も当時の家をリフォームしながら使っていますよ。

荒木さんの生家。当時はトタン屋根だったそう

Q:今の木工所はお爺さまが作られたのですか?

祖父の代は農業ですね。父の代から農業だけでは食べていけなくなりまして、木工所になり、檜で割り箸を作っていました。昭和40年代半ばに国策で、杉や檜を植林しようという施策が出ましてね。今となっては惜しいのですが、果樹など全て伐採して、杉の木を植えました。当時は、海外から建築資材が入って来るなんて想像もつかなかったからですね。ちょうど高度経済成長期で、木材の需要が高かったので、植林を勧められたんですね。その木が今は大きくなりましたが、結局その時父が植えた木は、放置林となって利用していません。木を手入れするのにお金もかかるし、人手も時間もありません。時代の後追いだったという気がしています。中国製の割り箸に押されて次の商材をと考え、酒樽の部材を加工・製造するようになったのは、僕の代からです。当社では、酒樽の蓋と底を作って灘の菊正宗酒造に卸しています。

約50年前に植えられた杉が今では放置林に

Q:酒樽は順調に進んだんですね?

コロナ禍になる前まではすごくよかったですね。でも、コロナの影響でイベントの数が激減して、鏡開きなどのお祝い事で樽を購入する人が少なくなってしまったんです。注文が減って時間ができたことで、ふと端材の山に目がいったんですね。木材は利用できるまでに下刈り、つる切り、除伐、間引きなどの手入れをしながら40年以上かかります。端材といえども丹精込めて育てた木です。産業廃棄物として大量に処分されるのは心が痛みます。この貴重な資源に手をかけてリユースし、使い続けたいという考えにいたりました。

Q:ちょうど世の中もSDGsに注目しだしていましたよね。

そこで何しようかなと思った時に、うちは何十年も酒樽の材料を作っているので、その原理を応用して、家庭用のサーバーを作ったらどうかと思いつきました。2年半くらい前です。

酒樽の部材加工の技術を生かして新しいプロダクトを開発
吉野杉の小型サーバーと台座のセット12,100円(税・送料込)

Q:このサーバーに日本酒を入れると樽酒になるんですね。

そうです。日本酒が900ml入ります。12時間くらい置くと、日本酒の芳醇な香りに吉野杉の清々しい香りがかけ合わさって、かどが取れ濃密でまろやかな樽酒が出来上がります。焼酎やウイスキーにもいいですよ。杉の香りがどんどん溶け出していくので口当たりのいい芳香な味が楽しめます。出来上がった樽酒は、別の瓶などに移してゆっくりお楽しみください。お手入れは、蓋を開けて洗ったら自然乾燥させるだけと簡単です。

Q:やはり樽は吉野杉がいいんですか?

他の杉では味が強すぎたり、淡泊だったりするんです。吉野杉は密植させてわざと目を細かくします。このことが香りと味わいを生むと言われています。

Q:どこで購入できるのでしょうか?

吉野町のふるさと納税の返礼品になっているのと、吉野ビジターズビューローの「吉野オンラインSHOP」で販売しています。

ご夫婦で協力しながら新製品の開発にあたっている

Q:サーバー以外にも作られているのは?

「HAZAI」プロジェクトというのをやっていまして、吉野杉の廃材を使って試験管を差し込むタイプのフラワーベースなどを作って販売しています。玄関に置いておくと香りもいいので、大変喜ばれています。これまでは、薪ストーブの燃料や紙の材料のチップに出すくらいしか再利用の方法がなかったのですが、SDGsの影響でお客さまから反応をいただき、たくさんの勉強をさせていただいています。

縁起の良い八角形のフラワーベース3,000円~4,000円
小ぶりのフラワーベース1,000円~1,500円
美しい木目を生かしたフラワーベース2,000円~4,000円

Q:どれも、素敵な商品ですね。これはどちらで購入することができますか?

フラワーベースは、催事で販売しています。催事情報はInstagramに掲載しておりますのでご覧ください。ぜひ吉野杉に触れていただき、木目の美しさや手ざわり、香りなど、生きている木の良さを知っていもらいたいと思います。

Q:ありがとうございます。殿川は限界集落と聞きましたが、後継者はおられないのですか?

捜しているのですが、見つかりませんね。殿川集落は開村して76年ほどの歴史しかありませんから、古臭い村の慣習などがないため、住みやすい村だと思います。いま、新しく移住されてきた方たちといっしょに村の活性化を図るために、「トノカツ」という組織を運営しています。地域創生を勉強している大学生たちと途切れていた夏祭りを復活させたり、昔栽培していたリンゴの木を植えたり、空き家をリフォームして入村体験の取り組みなどを行っているんですよ。祖父たち入植者が苦労を重ね、暮らしを築き上げてきた殿川集落には、助け合いの気風が育まれているのだと思います。どなたが来てもウエルカムです。ここに魅力を感じてやって来る人がもっと増えてほしいと思いますね。

Q:吉野杉の端材利用から地域活性化活動まで、興味深いお話をどうもありがとうございました。

荒木木工所

住所:奈良県吉野郡吉野町小名1398

電話:090-2284-2563

・吉野オンラインSHOP

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