SDGsに取り組む奈良シリーズ③自社生産杉箸【吉辰商店】

昨年12月、県商工会連合会、橿原商工会議所主催による『ビジネスマッチなら「NARA」から広げるSDGs Actions』のプレス発表会が行われました。奈良県内でSDGsを取り入れている事業者9社が参加。食品や原材料のロスを減らすなど、新たな発想や工夫によって開発されたSDGs(持続可能な開発目標)に絡めた商品やサービスを紹介しました。

「ナラトワ」では、この9社の事業者のうち7社を独自に取材。それぞれの企業の活動をシリーズでご紹介します。第3回目は、「吉辰商店」の自社生産杉箸です。

「吉辰商店」は、吉野郡下市町で吉野杉や檜を使った割箸や木製品の製造・販売をされています。近年、建築様式の変化に伴い奈良県産高級木材の使用が激減。廃業する製材業者が相次ぎ、箸の材料となる建築端材が出来ず、箸生産者が激減しているそうです。最高品質の吉野杉の良さを、身近にある箸を通じて、もっと多くの人に知ってもらいたいと、代表の吉井辰弥さんはさまざまなアイデアと工夫で、地域と環境SDGsの推進に取り組んでおられます。いったいどんなことをされているのか、下市にある工場まで行き、お話を伺ってきました。

吉辰商店代表の吉井辰弥さん

Q:さっそくですが吉辰商店の事業内容について教えていただけますか?

吉野杉、吉野檜箸製造販売、そして各種割箸、木製品、外食関連商品の販売、またお箸を使ったノベルティー商品の企画や販売もしております。祖父の代から始め、私で3代目となりました。

100年以上前に建てられた工場で今も箸を製造している

Q:奈良県内の割箸産業の現状について教えてください。

3、 40年前、問屋は約50社、生産者は300件以上ありましたが、現在では問屋が約20社、生産者は4、50件程度と激減してしまいました。生産者の高齢化もありますが、原材料の減少に伴って材料価格が値上がりしたことが要因です。割箸は日本全国で年間約250億膳も使われているのですが、そのほとんどが海外産で国内産の箸はわずか0.5%しかないのです。

吉井さん自ら機械を操作し、高級箸を作っている

そんな中、吉辰商店は生き残りを目指して、熟練の職人がいなくても、品質の良い製品ができるような機械を導入し、製造直売の方向へ進んでいます。現在は東京の高級料亭やセレクトショップ、そしてフランスやアメリカなど海外のお店とも直接のお取引をさせていただいております。

香り高く木目の細かい品質の良い割箸を選別する

Q:原材料が減少しているのは何故なのでしょうか?

山に木はたくさんあるのですが、出てこないのです。その要因のひとつはまず日本国内の建築様式が変化し、建材としての需要が減ったこと。そして、放置林問題ですね。間伐には国から補助金が出るのですが、伐採した木の搬出の費用までは出ません。だから切るだけ切って倒して終わり。そうすると、倒れた木が雨で川に流されて自然なダムが出来てしまうなどの災害の危険があるのです。数年前、大きな水害があった時、地滑りを起こし、山の木がそのままずれ落ちて流れたことがありました。日本の木がいかに活用されていないかという証明になりましたが、未だ対策はなされていません。

密植される吉野杉

Q:木を切ることは環境破壊だという人がいますが、吉野の杉の木は切らないと災害を起こしてしまうのですね。

吉野の杉は、密植という特殊な育て方をしており、切るために植えた木なのです。満員電車で人がぎゅうぎゅうに詰め込まれていると急ブレーキをかけたときに倒れ込むのと同じ現象で、木と木の間をあけて根が大地にしっかり広がるように育てていく必要があります。そのために間伐は必須なのです。こういった問題について、私たちの身近であるお箸を通して、みなさんに知っていただくことが大切だと感じ、さまざまな啓もう活動をしております。

Q:どういった活動をされているのでしょうか?

まずは、実際の山の現状をご覧いただく取り組みとして、林道ツアーを行っております。林道を車で走り、川の源流に降りて湧き水に触れてもらったり、山頂で珈琲を沸かして味わってもらったり、山の尾根から遠くまで連なる森林をご覧いただいています。都会から来られた方は興味深く楽しんでおられます。

川上、吉野、黒滝の山の尾根を車で走る林道ツアー(5000円)

次にお箸作りのワークショップを開催しています。山林の保全や現状、木材の利用などのお話しをしながら、ミニカンナで木を削りながら、思い思いの箸を作っていただきます。地域の小学校の課外授業などで子供たちにお箸づくりを体験してもらったりもしています。

お箸づくりのワークショップ体験(1500円)
お箸を自分で削ることで吉野杉に触れてもらう

Q:資源循環の取り組みもされているんですよね。

お箸の製造過程で出てくるおがくずを、近隣の地域団体や農家さんの畑の土壌改良材や防草用に使ってもらったり、木の削り屑については、包装資材の緩衝材、下駄箱に入れる吸湿消臭剤等にも利用していただいています。

土壌改良剤としておかくずを土に混ぜて使う

また、使用後の割り箸を再利用する循環型ビジネスモデルにも取り組んでいます。まずは弊社の販売先で使用後の割箸を洗浄・乾燥した後、送り返していただきます。それを下市町内の協力会社で粉砕発酵し、マルチング材や土壌改良剤として加工していただくという活動です。1度使ったお箸を土に戻し、やがて木や植物が育つことにより、CO2の削減にも役立つと思います。これらSDGsの推進に向けて、微力ではありますが、知恵と工夫で貢献していきたいと思っています。

Q:お箸以外で扱っておられる商品についてご紹介いただけますか?

たくさんありますので一部になりますが、下市町の特産である神社で使われる三宝の下の台の部分を立て、丸い穴を開けたコーヒーのドリッパースタンドなどは大変人気があります。クスノキのキューブは、サンドペーパーでこすると森林のいい香りが部屋に立ち込めるという商品です。木に馴染んでいただきたい思いで、贈り物に最適なパッケージデザイン、商品作りに努めています。当社のHPからご購入いただけますし、若草山山麓北ゲート付近にある「菊一文殊四郎包永本店」でも扱っていただいていますので、ぜひ手に取ってご覧ください。

吉野檜のドリッパー、吉野杉の枡、キャンドルホルダー、クスノキのキューブなど

Q:どうもありがとうございました。

事業所名:吉辰商店
住所:奈良県吉野郡下市町下市2764-6
電話:0747-52-3649. 8484
吉辰商店HP
吉辰SHOP

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