伝統文化を次世代へ 田原本町の子どもたちが挑む新作能「寿椿」

 奈良ゆかりの芸能で、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている「能」。奈良県には能ゆかりの地がたくさんあります。そのような地域では、廃れさせず若者にどう受け継いでいくか、ということが課題に挙がっています。田原本町では、住民のグループが地域の伝承をテーマに新たな能を作り上げました。参加する子どもたちはプロと同じ舞台に立って舞いを披露します。

 きょうまで伝えられてきた伝統文化を次世代にいかに伝えていくか、その姿に密着しました。


 まっすぐ前を見つめる子どもたち。手には扇を持っています。ここ田原本町では4年前から、伝統文化を次世代に伝えようと住民らでつくるグループが子どもたちによる能の公演を企画しています。

 去年11月から練習を行っていて、今回が初の参加となる初心者など子どもたちの経験は様々です。

子どもたちは―

「『能を始めてみたい人』っていうプリントが学校でも配られたから面白そうだなと思ってやりはじめた。」

「(能を舞うのは)はじめてです。」

「うん、はじめて。」

「踊りと謡いがバラバラになってたからそういうところがちょっと難しいかなと思って。」

 田原本町にある補巌寺は、1958年に発見された納帳に、能を高めた世阿弥と、その妻が土地を寄進したことが記されており、夫妻がこの寺と密接に関わっていることがわかりました。

妻の名前は「寿椿」。

今回の舞台は世阿弥の妻・寿椿の謎めいた美しさを描き出そうとしています。指導するのは大阪などで活動する観世流能楽師・山下あさのさんです。

山下さん

「子どもたちに歴史、日本の文化、田原本の歴史を伝えていきたいっていうお母さんたちの気持ちで始まって続いているものなのでやっぱりシテも(世阿弥の)奥さんがいいねって。」

 子どもたちが演じるのは椿の精。シテ方・山下さんが演じる演目の主役である寿椿が登場する前に表れ、不思議な雰囲気を作り上げます。ポイントとなるのは能特有の足遣い。頭を動かさないように歩きます。なかでも今年参加4年目、最前列で舞う小学6年生の子は…

「やっぱりわたしが間違ってたら後ろで見てる子とかも間違っちゃったり戸惑っちゃたりするのでそこでしっかり覚えたいと思います」

 指導する山下さんは、練習を振りかえる子どもたちの吸収力に驚く一方で、本番でも緊張に飲まれずに舞うことが課題と話します。3月4日、新型コロナの感染対策のため、約1カ月にわたる延期を経て、ついにお披露目の日がやってきました。映像を動画サイトに投稿するというかたちでの発表に変更されましたが、子どもたちからは緊張感が漂います。

午後7時45分、いよいよ新作能「寿椿」が始まります。まず、能楽研究者の男性が、世阿弥・寿椿ゆかりの補巌寺を訪れ、寺の歴史について語り始めます。

ワキ方・原大さん

「皆々御覧候へ。これこそ世阿弥参学の碑よ。」

 碑のそばには美しい椿の花が咲く補厳寺。話をしていると子どもたち演じる椿の精たちが姿をみせます。椿の精たちが舞うと、舞の衣装に身を包んだ美しい女性、寿椿の霊が現れます。時間は約50分、無事演じ切りました。

子どもたちは―

「いつも通りできました。緊張しすぎてちょっと間違えた。緊張した。」

「(登場時の)歩くところが長すぎて、緊張がめちゃくちゃありました。」

「能は昔のこととかいろいろ舞えるのが好きになりました。」

「今回はオリジナルの能ということで舞ったので特別に感じました。今後はこの経験を活かして、能以外のことにも挑戦できたらいいなと思いました。」

山下さん

「プロと一緒にこの能舞台に立って地元の新作能の初演であれだけしっかりと舞うということは本当になかなかできないことなのですばらしい子供たちの経験になったんじゃないかなと思いますし、私もとても嬉しかったです。」

 世阿弥と寿椿ゆかりの田原本町。コロナ禍で厳しい条件のなか、子どもたちを中心に一丸となって新作能を演じ切りました。一回り成長した子どもたちによって伝統文化は次世代に伝わっていきます。


 きょうまで伝えられてきた伝統文化を、これからも様々な手段で伝えていくということが私たちにとっての重要な役割かもしれません。

 田原本町の皆さんによる新作能「寿椿」はYoutubeで動画が公開されています。子どもたちの舞はもちろん、寿椿や人々の美しい舞、お囃子の音色など見どころたくさんです。ぜひ、ごらんください。


※この記事は取材当時の情報です。

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