衆院選2021 若者の投票状況を他国と比較してみると? 際立つ日本の低投票率(原口和徳)

衆議院議員総選挙は10月31日に投開票日を迎えます。

若い世代、特に10代有権者の投票率は国政選挙のたびに低下しており、若者の投票を呼び掛ける報道や取組が数多く行われています。

若者の投票への参加状況を確認してみましょう。

投票をする18歳は2/3に減少している

2016年の参議院議員選挙以降、3回の国政選挙で10代有権者が投票してきました。

この間10代有権者の投票率は右肩下がりとなっています。例えば18歳有権者の投票率は、51.17%(2016年参院選)→50.74%(2017年衆院選)→35.62%(2019年参院選)、19歳有権者の投票率は39.66%→32.34%→28.83%と推移しています。

図表1_年代別投票率の推移

年齢別人口をもとに算出した推定投票者数を比べると、2016年参院選での18歳投票者数は61.9万人でしたが、2019年参院選では41.4万人とおよそ2/3となっています。

年齢別人口には大きな変化がありませんので、18歳の政治に対する意見は20万人分も消えてしまったことになります。また、投票者数に着目すると、2016年の参院選で「日本で初めての18歳有権者」として投票した人たちのおよそ半分の人は2016年の参院選では投票していないこともわかります。

日本財団が8月に実施をしたインターネット調査では、回答者(今回衆院選で選挙権をもつ10代有権者)の55.2%が投票する予定がある(投票するとたぶん投票するの合計)と回答しています。

今回衆院選では若者の投票率は回復するでしょうか。

日本の投票率は全年代で他国よりも低い

若者の投票率については、他国と比べても低い水準にあると指摘されることがあります。

図表2_年齢別投票率の比較

図表2では、G7のうちイタリアを除く6か国の年齢別投票率を比較しています。

総じて各国とも若者世代の投票率が低く、年齢を重ねるほど投票率が高くなっていることが確認できます。

日本の特徴としては、年齢の低下に伴う投票率の減少幅が他国よりも大きいことや、75歳以上の世代の投票率が大きく減少していることがあります。

年齢が下がるにつれて、投票率の低下が顕著になっている

多くの国で投票率の高かった65歳~74歳の投票率を基準として、各年代の投票率がどの程度低下(増加)しているかをグラフ化したものが図表3です。(大統領選挙だけの投票率を把握することのできなかったフランスを対象から除外しています)

図表3_高齢者の投票率と他の年代の投票率の比較

日本では18歳~24歳世代の投票率は65歳~74歳の世代に比べて約40%低下していますが、次に低下幅が大きいアメリカやイギリスでは25%程となっています。やはり日本の若者は他国よりも投票に参加していないことが強調される結果となります。

また、投票に参加していないのは若者だけではありません。45歳~54歳の世代であったとしても他の国に比べて2倍に近い低下幅を示しています。

投票に参加しないことは若者で顕著ですが、若者だけの課題ではありません。

なお、気をつけておきたいこととして「有権者登録制度」の影響があります。図表2、3で取り上げた国ではアメリカ、イギリス、カナダ、フランスが対象となりますが、イギリス、カナダ、フランスについては、すべての国民ではなく、有権者登録を済ませた有権者内での投票率を扱っています。

有権者登録の実施率は若い世代ほど低くなっていますので、日本の若者の投票率の低さは必要以上に強調されている可能性がある点も考慮する必要があります。

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若者の投票参加を阻む誤った思い込み

今回の総選挙では、学校(大学や高校)や商業施設に期日前投票所を設置する選挙区が増加したことや選挙割などの投票参加を促す活動、SNSを通じた投票参加のきっかけづくりや政策情報の発信などの様々な試みが行われています。

若者が投票をするための環境、サポートはこれまでよりも充実しています。

でも、いざ投票しようとすると、様々な壁があります。

例えば、「シルバーデモクラシー」。

少子高齢化が進む中で有権者に占める高齢者の割合が増し、高齢者層の政治への影響力が増加する(=若者を含む他の世代の政治への影響力が減少する)ことを指す用語ですが、この言葉を目にして「だから投票しても仕方がない」と投票する気持ちをくじかれてしまっている人もいるかもしれません。

でも、「日本に暮らしている18歳~29歳(約1,495万人)の4割の人は自分たちが投票に行くことでシルバーデモクラシーを回避できる」と言われるとどうでしょうか。

図表4_人口上位5位の都道府県における年代別有権者数のランキング

人口上位5位までの都道府県について、今年1月の年齢別人口を基に10歳区切りで人数の多い順番に並べてみると、東京都や愛知県、神奈川県では18歳~29歳の有権者が、60歳代や70歳代の有権者よりも多くなっています。大阪府や埼玉県では70歳代の有権者数が18歳~29歳の有権者よりも多くなっていますが、その差はわずかです。加えて、75歳以上の有権者の投票率は65歳~74歳世代よりも約20%も低下します。(図表2より)

これらの5都府県には日本に暮らしている18歳~29歳の約4割の人が住んでいます。日本に暮らす若者の4割は自分たちの行動によってシルバーデモクラシーに振り回されないですむ状況にあります。

「休日に投票に行くのが大変」

「自分だけが投票しても結果に影響しないし、無駄だと思ってしまう」

そう思われることもあるかもしれません。でも、投票所(前回総選挙47,741か所)はセブンイレブン(21,210店。2021年9月末時点)の2倍以上の数、設置されますし、8割の人がご自宅から10分以内に到着できます。また、小選挙区の1割弱はその選挙区の有権者の1%以内の票差で決着しています。あなたの一票の価値が相対的に高くなる接戦の選挙区も多いですよ。

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他国の若者が投票率を向上させている中、日本の若者は?

今回の総選挙は「新内閣の発足から解散までの期間」、「解散から投開票までの期間」がともに戦後最短になるなど、日頃政治と接点のない方にとってはとても参加しにくい状況です。

加えて、明るい選挙推進協会の調査において、前回の参議院議員選挙で若者が投票しなかった理由として、20%弱の人が「どの政党や候補者に投票すべきかわからなかったから」を挙げています。

図表5_直近2回の国政選挙での年齢別投票率

他の世代に比べて政治に参加しづらい思いをしているのは、きっと他の国の若者たちも同様です。

でも、自分たちが暮らす社会を二分するような問題に面する中で、アメリカもイギリスも若い世代が一歩を踏み出して、投票により多く参加するようになっています。

若い有権者の方は投票することに難しさを感じていても大丈夫です。世界を見渡してみれば行動を起こす若者はあなただけではないですし、他の国の若者もすでに一歩踏み出しています。 新型コロナウイルスによって私たちの暮らしは多くの犠牲と変化を強いられています。そのような中で、他国に続いて日本でも投票に参加をする若者が増加していくことになるのか、注目されます。

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