夏がビジネスチャンス?奈良のイチゴが日本のイチゴを変える!

 古都華やあすかルビーなどで有名な奈良のイチゴ。甘くておいしいイチゴですが、その戦いはまさに熾烈を極めます。

奈良県では2020年の農産物の総算出額395億円のうち、イチゴの産出額は約27億円、収穫量は2,290トンで、全国17位につけています。

JAならけんがまとめた販売実績では、昨年度は古都華が約2億5500万円と、奈良県産イチゴのトップに立ちました。次いで、愛知県オリジナル品種のゆめのか、あすかルビーが続きます。

 高まるイチゴブームの理由とは…?なら食と農の魅力創造国際大学校で、農業や経営について教える堀川大輔さんに聞きました。

なら食と農の魅力創造国際大学校 アグリマネジメント学科・堀川大輔さん

「見た目と味ですかね。育てて収穫のときに、かなり喜びとしてあるのではないかなと私は思っています。トマトとかナスに比べて(イチゴは)やっぱり植物としては弱い部類になります。どうしても奈良県は農地面積が限られていまして、少ない面積で収益を上げられるというところも大きいのかなと。」

 一般的な品種のイチゴは、ほとんどが「一季成り」と呼ばれるものです。寒い時期にじっくりと育てることで甘みが熟成されます。11月下旬から5月ごろまでが収穫シーズンで、クリスマスや正月が需要のピークです。これに対し、6月から11月の夏から秋に収穫できる「四季成り」と呼ばれる品種もあります。

なら食と農の魅力創造国際大学校 アグリマネジメント学科・堀川大輔さん

「限られた消費者のパイを今、全国的に取り合ってるような状況ではありますので、付加価値をつけながら、贈答系ですとかケーキ需要ですとか…。そういったところで独自性を出していくというところが大きいのかなと。」

 イチゴの競争が激化するなかで、今、夏のイチゴが注目されています。天川村は2017年から、山間部の涼しい気候を活かし、「四季成りイチゴ」の試験栽培を行っています。

栽培しているのは長野県の信州大学が開発した品種。村内の販売所とふるさと納税の返礼品としてしか手に入らない貴重なイチゴです。

一方平地でも、イチゴを夏に作れるよう取り組む人がいます。この植物工場を作った前田光樹さんは、バイオテクノロジーの研究や海外での技術指導を経て、十年ほど前に奈良で新規就農しました。真っ白なイチゴ「パールホワイト」など独自のイチゴを開発し、海外を中心に販売しています。

アグリテックプラス・前田光樹さん

「以前から結構夏のイチゴというのは求められていたので、いろんなところがチャレンジをして、結構大きい設備でやられたりしたとこもあるんですけどやっぱどこもなかなかうまくいかなかったんですよね。(四季成りは)品種の歴史は浅いので、どうしてもあまり美味しいイチゴが採れない。もしくは実が小さかったり収穫量が少ないということで大きな量になっていかない。私がやろうとしたのは四季成りイチゴを夏作るのではなく、一季成りイチゴを夏に作ろうということでトライしました。」

 本来冬から春にしか育たない一季成りのイチゴを夏でも収穫するため、室内の環境を2月・3月の日中とほぼ同じにし、花や実をつけるように促します。そして、前田さんが開発した独自の栽培方法でイチゴの収穫量をあげ、採算がとれるよう試みています。

アグリテックプラス・前田光樹さん

「まだ実は小さいですけど、これが奈良県の古都華。」

 太陽の光を窓から取り入れているというのが、(LEDとの)ハイブリット型と呼ばれるうちの最大の特徴。LEDで育てる植物工場と、日光で育てるビニールハウスの特徴を同時に取り入れる方法は、前田さんがイチゴの生育をより良くしようと考えたものです。挑戦のきっかけは夏のイチゴへのビジネスチャンスとともに、前田さんが海外で働いていた際に感じた危機感からだといいます。

アグリテックプラス・前田光樹さん

「海外で食べているイチゴが段々美味しくなっていっていくように感じていたんですね。それが何でなのかというと、日本から品種が流出して、韓国とか中国とか、そういうところで日本の品種が栽培されるようになってですね。これはまずいなと。」

 農林水産省の試算では、シャインマスカットやイチゴなどの海外流出による損害は全体で1000億円にのぼるとも言われています。前田さんは夏のイチゴがこの現状を変える突破口になるのではないかと考えています。

アグリテックプラス・前田光樹さん

「彼らが作れない時期にイチゴを作って海外に輸出すれば、それは日本がもう独壇場になる。やりたいって言って手をあげて作っていただける方が増えていけば、チームジャパンとして、日本の夏のイチゴが海外で出回る日が来るんじゃないかと思っている。そういったことに向けての努力を続けていきたいと思っています。」

 これからの季節が楽しみな奈良のイチゴ。イチゴ農家による国内での激しい戦い、そして海外で生き抜く手段として、夏のイチゴへの注目はさらに高まりそうです。

記者:本田まりあ

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※この記事は取材当時の情報です。

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