世界に愛される伝統技術・菊一文珠四郎包永【奈良のギモン】

若草山のふもと、伝統の技を世界に発信する店があります。刀鍛冶の技術を受け継ぎ、刃物を製造・販売する「菊一文珠四郎包永」です。

「菊一」の愛称で親しまれていて、伝統の技術が生きる包丁は、プロから家庭まで広く使用されています。そのルーツとなる鎌倉時代の刀工・包永は、東大寺の転害門近くに住み、当時の奈良を代表する「手掻派」を開いたとされます。現在の若草山のふもとに本店が移転してきたのは、1889年。

なかには、こんな貴重な資料も残されていました。

今から約120年前に書かれた物品の売買記録です。

社長・柳澤育代さん

「その頃は刀を販売していたんですけれども、誰が買ったかとか、警察の人が時々チェックするので記録しているものなんです。西洋人とか、こんなふうに書いているものもあるわけなんですね。」

こうした歴史ある菊一文珠四郎包永は、1997年にアメリカ・ニューヨークに現地法人を設立。

その後、日本食ブームの波に乗って販路を拡大していきました。中でも積極的に取り組んだのが、鍛冶職人の技を知ってもらうデモンストレーションです。

刀鍛冶がルーツという点でも注目され、現在では80社を超える海外のキッチン用品店に卸しています。約350点ある包丁やはさみなどの中で、特に人気なのが「ダマスカス包丁」です。刃に表れた模様の美しさから、コレクション目的で買う人が多いといいます。

社長・柳澤さん

「包丁っていうのは、どんな料理にでも使う、あまり文化とか人種を選ばない、あのキッチンの中にはもう絶対なくてはならないグッズの一つなんですね。商品にはそれなりのストーリーというものをアメリカのバイヤーは求める。『これすごく切れる包丁、なんでか知ってるか?』『これサムライ包丁だから』という話をするわけですよ。そういうところは、すごいアメリカの人が気に入ったんやろうなっていうかんじですけどね。」

海外での展開に加え、国内でもインバウンドの増加により順調に売り上げを伸ばして来た「菊一文殊四郎包永」。

しかし新型コロナの影響で、状況は大きく変わりました。

国内外からの観光客の激減で、国内の売上高は60%以上減少する一方、海外売上高を見てみると2021年は2020年に比べて倍以上に伸びています。

その結果、売上高に占める海外比率も、2015年には7.5%だったのが、2021年には38.8%と4割近くを占めるようになりました。

社長・柳澤さん

「(コロナ禍で)皆さん外で外食をしない。家でご飯を作るってなると、材料を買ってきて切る作業が必要なわけなんですけれども、でも包丁ないよねっていうことになって、(海外で)包丁の売り上げが倍増していったというのは、そこにある。ちょっとしたこじんまりとした集まりとかするわけですよ。皆さんが使うもので、巣ごもり事情に必要とされたものであったということ。」

一方で、国内ではインバウンドに頼らない新たな戦略を打ち出しました。それはアメリカでのスタートと同じ、伝統技術の体験です。

この日は愛用の包丁を持ち寄った5人が参加し、専門の砥ぎ師のアドバイスのもと、本格的な包丁とぎに挑戦しました。

参加した人は―

「もう10年砥いでなかった。」

大切なのは足を運んでもらい、店内で過ごしてもらうこと。そして、伝統文化を続けるうえで大切な、職人の優れた技を体感してもらうこと。柳澤さんは包丁を通して日本の技術力、そして奈良の魅力を伝えたいと意気込んでいます。

社長・柳澤さん

「やっぱり自分の地元ですし、奈良にきていただくことで、喜んでいただけなかったことって今まで無いんですね。いろんな自然も豊富にあって文化遺産もあってというところを世界に発信できればと思います。」

※この記事は取材当時の情報です。

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